「マリス博士の奇想天外な人生」ハヤカワ文庫NF(2004年)
ほとんどの人が知らないはずで、でも、知ったからどうだ、という話をひとつ。
最近、コロナウイルスの感染法を調べるために「PCR法」というのが、かなり一般的な言葉になりました。
科学界隈の人には元々おなじみだったこの「PCR法」ですが、PCR法の発見でノーベル賞をとったキャリー・マリス博士の自伝があって、これはかなりぶっ飛んで突き抜けている自伝なのです。
ちなみに、「マリス博士の奇想天外な人生」ハヤカワ文庫NF(2004年)の翻訳は、あの有名な福岡伸一さんです。
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<内容(「BOOK」データベースより)>
DNAの断片を増幅するPCRを開発して、93年度のノーベル化学賞に輝いたマリス博士。
この世紀の発見はなんと、ドライブ・デート中のひらめきから生まれたものだった!?
幼少期から繰り返した危険な実験の数々、LSDのトリップ体験もユーモラスに赤裸々告白。
毒グモとの死闘あり、宇宙人との遭遇あり…
マリス博士が織りなすなんても楽しい人生に、きっとあなたも魅了されるはず。
原題は Dancing Naked in the Mind Field
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<目次>
1:デートの途中でひらめいた!
2:ノーベル賞をとる
3:実験室は私の遊び場
4:O・J・シンプソン裁判に巻きこまれる
5:等身大の科学を
6:テレパシーの使い方
7:私のLSD体験
8:私の超常体験
9:アボガドロ数なんていらない
10:初の論文が「ネイチャー」に載る
11:科学をかたる人々
12:恐怖の毒グモとの戦い
13:未知との遭遇
14:一万日目の誕生日
15:私は山羊座
16:健康狂騒曲
17:クスリガ開く明るい未来
18:エイズの真相
19:マリス博士の講演を阻止せよ
20:人間機械論
21:私はプロの科学者
22:不安症の時代に
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目次を眺めるだけで、堅い科学者の本とは異質なものだと分かります。
常識とは、常に仮初めな意識の集合体で、常識を疑い、常識を笑う。
真理に向けて一直線。果敢に突っ込む天才科学者は、物理学者ミチオ・カクさんのような自由奔放で突き抜けた真の知性の凄みを感じます。
エピソードもひとつひとつが面白いんですが、ダイジェストに簡単にご紹介します。
■PCR法の発見で日本国際賞を授賞したとき。授賞式で天皇陛下にお会いして、美智子皇后に「sweety(かわいこちゃん)」とあいさつしたらしい。ただ、あまりにもフランクなので、美智子皇后も笑顔だった、とのこと。
■合成麻薬LSDが違法ではなかったころに自分でLSDを人体実験して、その時のサイケデリック体験を記述。(物理学者のファインマンに似てます)
例えば、
『私たちは特別な方法で交流していた。特別に作りだされた場所からお互いの心の中を見ていたのだ。』
『LSDは私が既にもっていることを変革する力はあまりない、ということだった。LSDはいわばそこに深みを与えるものであって、方向性を与えるものではない。そういうことだった。』
■超空間を移動する奇妙な女性から命を救われる話。(これもすごい実話?だった)
■マリス博士が大学院2年のとき、天文学知識はゼロだったにもかかわらず、空想と直感だけで「時間逆転の宇宙論的意味」というSF的内容の科学論文を書いた。その初論文が科学雑誌で最も権威あるNatureに掲載された、という実話。
それもすごいんですが、ノーベル賞をとったPCR法の論文は、NatureやScienceの一流とされる雑誌には全て落とされてしまった。このことも驚いた。
マリス博士の教訓として「賢人が世の中を正しい方向に導いてくれているというのは単なる幻想だからやめなさい」と。
『私たちは自分の頭で考えねばならないのだ』と説いてます。
■
『社会的に重要とされる問題のうち、それが本当かどうかきちんとした実験的検証を経ているものはほとんどないのである。政策決定に必要なのは、選挙民をだまくらかしてそう思わせることだけである。』
科学的根拠がないのに一般的に「常識」と流布されている例として、
・AIDSがHIVで起きるという考え方(HIVとAIDSの因果関係を明確に示した原著論文はいまだない?らしい)
・化石燃料の使用が地球温暖化をもたらすという考え方、
・フロンガスがオゾン層を破壊して穴を作り出すという説
などをあげています。
マスコミの先行報道で特に根拠もなくある説が流布されると、それが独り歩きして「常識」のような顔をして居座ってしまう。誰も検証すらしなくなると、疑われることすらなくなるという事が結構あるらしいです。これはなんとなくわかります。
マリス博士が言うように
『私たちは自分の頭で考えねばならないのだ』
というのは、真実ですね。
■言葉をしゃべる光るアライグマ(彼は宇宙人?としていますが)と遭遇した時の超常現象
■占星術(星占い)はすごいので科学者も謙虚に勉強しなさい、というお話
・・・などなど。
どんな世界であっても、その世界を突き抜けている人は面白い。
偏見や固定観念がなければ、僕らは子供のように自由だ。
生きているという事は、その自由さを自覚することだ。神様でさえも、自由意思だけは侵害してこない。
人生は学びの連続です。
終わりなく、果てしないものです。
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キャリー・マリス「マリス博士の奇想天外な人生」
『そもそも私の、世界へのアプローチは、この世界になにかグランドデザインがあってそれを証明しようとする、というものではないんだ。
仮説を証明するデータがほしいんじゃない。
むしろ世界がどうなっているか知りたいだけなんだ。
それは子供のころガレージで実験していたころからまったく変わっていない。
だから最初に考えていた通りにならなくても全然かまわない。
むしろ、あれ?そうなんだ!という展開の方が楽しいよ。
でも現在の科学はそうはなっていない。みんな自分の描いた世界を証明しようとしているんだ。
エイズがレトロウィルスによっておこる、人間の活動によってオゾンが破壊され、オゾンホールができる、地球が温暖化している。これらはみんな仮説だよ。
そしてやろうと思えばそれを支持するデータを集めてくることなんてことは簡単なんだ。
でもそれは世界の成り立ちを知ろうとする行為ではない。
人類のできることといえば、現在こうして生きていられることを幸運と感じ、地球上で生起している数限りない事象を前にして謙虚たること、そういった思いとともに缶ビールを空けることくらいである、リラックスしようではないか。
地球上にいることをよしとしようではないか。最初は何事にも混乱があるだろう。
でも、それゆえに何度も何度も学びなおす契機が訪れるのであり、自分にぴったりとした生き方を見つけられるようにもなるのである。』
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