地球の炭素を身体で受け取る場所 ―クアパーク長湯
大分県竹田市、長湯温泉にある「クアパーク長湯」を訪れた。
まず心を奪われるのは坂茂さんによる建築。木のやわらかな曲線、繰り返される梁、内と外が緩やかにつながる開放的な空間。人の身体を水辺へ、温泉へ、自然へと静かに導く。

館内のバーデゾーンは水着で利用する広い温泉空間になっている(だから写真もOK)。
湯の中を歩きながら、浮力で関節への負担を減らし身体を動かすことができる。歩行訓練や運動療法につながる空間だ。


歩行浴の通路から横へ突き出した浴槽へ進むと、目の前に芹川の流れが現れる。湯に浸かりながら川を見る。意識は水の流れとともに外へ開かれていく。
一方、内湯は水着を脱いで入る、通常の温泉である。
こちらでは湯そのものに集中できる。歩く場所と休む場所。その両方が一つの施設の中に丁寧に用意されていることが、クアパーク長湯の大きな魅力だ。
そして、長湯の湯を知るには、地球の時間まで遡る必要がある。
九重の山々に降った雨は地下へ浸透し、深部から上昇してくるマグマ性のCO₂と出会う。炭酸を含んだ水は火山岩と反応し、マグネシウムやカルシウムなどを溶かし込みながら、再び地上へ戻ってくる。「水」は空から、「炭酸」は地球の深部からやって来る。
クアパーク長湯の源泉を調べると、同じ施設内でも泉温は約24~54℃、遊離CO₂は141~614mg/kg、炭酸水素イオンは499~3,080mg/kgと大きく異なっていた。3号泉は炭酸水素イオン、マグネシウム、カルシウム、総溶存物質が最も多く、4号泉は遊離CO₂が最も多い。長湯の湯は一種類ではなく、地下でのCO₂供給、温度、水と岩石の反応、流れてきた経路によって、それぞれ異なる個性を持っている。
遊離CO₂と炭酸水素イオンは、別々の物質というより、炭酸平衡の中で姿を変える「同じ炭素の二つの顔」だ。
長湯温泉とはCO₂を含む温泉というだけではない。海底から地球内部へ沈み、火山を通って再び上昇してきた炭素と、今日の雨水とが地下で出会う場所なのだ。その意味で、ここはまさに「地球が作った病院」である。

ちなみに。
クアパーク長湯の中心的な泉質は『マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩温泉』。
一般に「炭酸泉」と呼ばれていても、クアパーク長湯の主要源泉の正式な泉質名は、遊離CO₂が1,000mg/kg以上の二酸化炭素泉ではなく、主に炭酸水素塩泉。
ただし、1・3・4号泉には遊離CO₂が約526~614mg/kg、HCO₃⁻が約2,670~3,080mg/kg含まれているので、実態としては、『遊離CO₂(二酸化炭素)と高濃度HCO₃⁻(炭酸水素)が共存する、Mgに富んだ天然のCO₂–HCO₃⁻複合泉』と表現するのが、長湯の湯の本質を正確に表現しているだろう。


では、クアパーク長湯のような医療に近い温泉施設をこれからどう生かせるだろう。退院後の体力回復、高齢者の歩行・フレイル予防、心臓リハビリ、慢性疼痛、働く人のストレスケア、介護する人のレスパイト・・・を支える地域の回復拠点になり得る。温泉、医療、運動、食、睡眠、自然環境を切り離さず、一つのケアとして設計する価値がある。
実は日本には、温泉療養を「医師の指示に基づく治療・健康回復として扱う制度」(=『温泉を処方できる制度』)がある。厚生労働大臣が認定する「温泉利用型健康増進施設」で、医師が作成した「温泉療養指示書」に基づいて温泉療養を行い、所定の条件を満たすと往復交通費を所得税の医療費控除に含めることができる。
大まかな流れは、
①医師の診察→②体調や疾患に合わせた温泉療養指示書の作成→③認定施設で、7日以上指示に沿った温泉療養を行う→④「温泉療養証明書」を受け取る→⑤領収書を保管し、年間の医療費と合わせて確定申告 というものだ。
ただ温泉へ旅行すれば対象になるわけではなく、医師の医学的判断、認定施設での療養、一定の利用日数、証明書類が必要になる。宿泊費や食事代など、観光・滞在そのものの費用まで自動的に対象になる制度でもない。
クアパーク長湯は温泉利用型健康増進施設である。だからここは、医師の評価に基づき、水中歩行、温泉入浴、休養を組み合わせ、回復の過程を支えることのできる施設として、制度上も位置づけられている。
ただ、この制度はまだ認知度も低く、手続き含めて生きた制度にはなっていないのだが・・。

クアパーク長湯が先駆的なのは、昔ながらの湯治を懐かしい文化として保存するだけでなく、医療、運動、建築、自然、滞在を組み合わせ、現代の制度の中に再び位置づけようとしている点だと思う。
さらに、この体験を温泉地だけで終わらせない可能性もある。
HOTTABによる中性重炭酸浴を活用した「在宅湯治」。自宅で日々整え、ときどき長湯を訪れて、地球そのものがつくった湯に身体を委ねる。自宅と温泉地を循環させ、日常のケアと土地の力をつなぐ。
湯を「消費」するのではなく、湯とともに回復の時間をつくる。
長湯には、温泉療法の歴史だけでなく、これからの医療とウェルビーイングを考える未来が流れている。
私なりに、医療とウェルビーイングが統合される第3の道の未来を考えてみたいと強く思った。
クアパーク長湯
〒878-0402 大分県竹田市直入町長湯3041-1
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