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七味温泉「紅葉館」―山を下りても、温泉は身体に残っていた

4 日前
読了時間: 4分

軽井沢から菅平高原を抜け、車で約2時間。

長野県北東部、須坂市や小布施町の東側に位置する高山村の七味温泉へ向かった。(高山村役場に用事があったもので)



高山村は、里の集落から群馬県との県境をなす山々へと広がる村。その山あいを流れる松川に沿って、個性の異なる温泉が点在している。先日訪れた山田温泉も、この同じ流域にある。



山田温泉よりさらに上流へ、松川渓谷の奥へと入っていくと、七味温泉にたどり着く。

県境の山々の向こうには、万座や草津の温泉地がある。

信州の谷を奥へ奥へと進みながら、群馬の火山と温泉の世界にも近づいていたのだと思うと土地のつながりが面白い。



軽井沢から約2時間という距離なのに、ずいぶん遠くへ来た気がした。

谷が深くなり、日常の気配が少しずつ遠ざかる。温泉に入る前から身体の時間が変わっていくようだった。



七味温泉には、かつて「日本秘湯を守る会」の会員宿(七味温泉の渓山亭)もあったという。ここで感じる秘湯らしさは、道のりの先で、山と湯がつくる時間に身を置くことにあるのかもしれない。



七味温泉「紅葉館」の日帰り温泉を訪問(日帰り入浴は午前10時~午後3時のみ)。






紅葉館は加温なし加水なし源泉かけ流しだった。


まず目を奪われたのは、白濁の色だ。

湯に身体を沈めると、自分の輪郭まで白い水の中へ溶けていく。


白濁だけでなく、「炭色の湯」があるのも面白い。宿の説明では、約70℃と約30℃の二つの源泉を混ぜることで化学反応が起こり、黒い湯花が生まれるという。熱い源泉を、別の低温の源泉と合わせる。その出会いが、温度だけでなく、湯の色や表情まで変えていく。


温泉は、地下で出来上がって終わるものではない。地上に湧き、空気に触れ、別の源泉と混ざりながら、変化を続けている。


源泉は熱いけれど、二つの浴槽では温度の違いも楽しめた。熱い湯から、比較的ぬるい湯へ。厳密な温冷浴ではないが、軽い温冷浴に近い体験だった。熱さで身体の感覚が鮮明になり、ぬるい湯へ移ると、ふっと力が抜ける。温度の違いを通して、自分の身体の反応がよく分かった。




(撮影不可だったので、浴槽の写真はHPから使わせていただきました。)



そして湯から出た後も、その日の午後はずっと、身体が温泉に包まれていた。


実際に温泉水が身体の中に残り続けている、という意味ではない。温かさと、皮膚の感覚と、身体の奥に残る余韻。服を着て山を下りても、まだ湯の中にいるようだった。

とりわけ匂いが強かった。自宅に帰ると、すぐに指摘されたほどだ。



掲示されていた分析表では、源泉は65.4℃。泉質は、含硫黄-カルシウム-硫酸塩温泉、硫化水素型。中性に近い湯でありながら、硫化水素を豊富に含む。


同じ「硫黄」という言葉でも、湯の主成分である硫酸塩と、匂いや皮膚との相互作用に関わる硫化水素では性質が違う。白濁も、地下から出てきた水が空気に触れ、硫黄成分などが変化していく過程を映している。温泉は、浴槽に届いてからも変化し続けている。


自分ではすでに馴染んでいた匂いが、家の中では、山から持ち帰ったものとして立ち上がる。温泉の記憶は、写真だけでなく嗅覚にも残る。


ただ、医師として添えておきたいのは、硫化水素は吸入を積極的に狙う成分ではないということ。皮膚や血管への作用が研究されていても、湯気を深く吸い込めばよいわけではない。換気のよい環境で、熱さを我慢せず、身体に合う時間で入る。自然の力を味わうには、その力との適切な距離も大切だ。





外には狸がいて、かわいかった。


力強い湯に圧倒された後で、その姿にふっと気持ちがほどけた。人間が温泉を訪ねるこの場所も、狸にとってはいつもの暮らしの場所なのだろう。



この谷の上流には、草津白根山や横手山へ続く火山地域がある。林野庁の資料にも、これらの山々を源とする松川が、七味・五色・山田の温泉を通り、千曲川へ流れることが記されている。七味の湯の熱源を一つの山に決めることはできないけれど、湯に浸かりながら、周囲の山々と地下の熱の営みを想像した。



そして面白いのは、同じ流域をたどるだけで、温泉の個性が変わることだ。


山田温泉は、透明な、塩化物を主体とする湯。


今回、七味で見た分析表は、硫酸塩を主体とし、硫化水素を豊富に含む湯だった。近い場所に湧いていても、身体に届く表情はこんなに違う。



川沿いに泉質の違いが並ぶからといって、同じ温泉水が上流から下流へ流れながら変化しているとは限らない。地下水の通り道、触れる岩石、ガスとの出会い、混ざり方。その違いが、地上ではそれぞれの湯となって現れる。


川をたどる旅が、地下の見えない世界を読む旅にもなる。



一つの流域を、湯と身体を通して感じていく。七味温泉は、その面白さを、匂いまで含めて持ち帰らせてくれた。



出た後に、久しぶりにクラクラするほどパワーの強い温泉だった。これが火山、地球の力なのか。今度は泊まってみたいなぁ。食事も美味しいらしい。



信州高山温泉郷 七味温泉 紅葉館

〒382-0800長野県上高井郡高山村牧2974-45





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