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書家 紫舟さん

先日、銀座シックスに、書家 紫舟さんのトークを聞きに行った。

書家の紫舟(シシュー)さんは、才能ある若き書家であり美術家として注目の女性だ。

日本の書や書道から始まり、書道の力、可能性を広げるために、書の定義をすこし拡張する。そして、日本の書のルーツに戻る。フランスやイタリアをはじめとしたヨーロッパでも数々の賞を受賞されている。 書の枠を広げる素晴らしい活動だと思う。ただ、こうした活動は、ともすると同業者からの批判を受けやすい。同じ業界にいるひとほど、その世界をいじられることに不愉快になりやみくもに批判することが多いからだ。 それは、近親憎悪という感情が働くから。距離が近いからこそ、引力と斥力とが同時に働く。自分が医療業界にいても日々感じることだ。

紫舟さんの話をきいて、「この人は哲学的思考ができるすごい人だ!」と感じた。

哲学的思考とはどういうことか。 それは抽象化する力のことだ。

抽象化とは、具体と具体の背後にある不変的な法則、その母体にアクセスして、個々の具体が発生してくる背後の法則をとらえることができる能力のこと。抽象的思考を人類ができるようになったから、シンボル(Symbol)能力が発達してきた。

フランスでは哲学の授業が数多くあり、抽象的な思考能力が高い国だ。デカルトしかり、サルトルしかり。 そうした国で、日本の良さ・深さ、日本という国のそぎ落とした美の世界(抽象能力が高い美)を正確に伝えるため、何をすればいいのだろうか、と考えた。自己表現だけではなく、書の歴史も尊重しながら。

自分が発信し、相手へ伝えるために、その【通路】をこそ徹底的に考えている人だ。 それは、マーケティングなど、人の情動を動かす浅い通路のことではなく、もっと根源的な通路。人間の思考や言語の奥深くにある集合的な無意識のようなところ。春樹作品でいうと「井戸」のこと。自我や思考パターンが発生する母体のこと。

紫舟さんの話を聞いていると、西洋と東洋という文化の奥深くにあるものの見方や自然観、そうしたものを深く洞察している。 これは、おそらくたった一人で道を切り開いてきた人だからこそ深めることができたのだと思う。

チームではなく個人で道を切り開くには、個人が思考の奥深くへと深めていく胆力と土台とが必要にな

るからだ。

たとえば、文字の構造の例。 日本語は左回り。(ひらがなは左回りで書く) それに対して、アルファベットは右回り。 こうした文字の書き方にも、文化が生んだ違いがあり、アルファベット文化圏での右回り螺旋での空間づくりを尊重しながら、そこに右回り螺旋のデザインをひそかに挿入していく、という話。

たとえば、庭園の構造の例。 日本の庭園は非対称(asymmetry)。 海外の庭などの空間づくりは左右対称(symmetry)。 こうした美学を尊重したうえで、西洋の左右対称(symmetry)の中に密かに日本文化の神髄である非対称(asymmetry)の美を忍び込ませる、という話。

・・・・・・

なんだかいろんなことが深い哲学的思考に基づいていて、感銘を受けた。 これは、単なる受け狙い、とか、そういう表層的な話ではないんです。文化や歴史への深い理解と敬意なんです。

文化や歴史が異なる人が、何に美を見出しているのか。そうした歴史や文化の厚みの上で、相手を深く尊重し理解しようとする態度なのです。 そうして、東洋の美(自然の美)と、西洋の美(人間・人工の美)とを、深く対話させる営みだと自分は受け取りました。

自分も、医療の世界で同じことを考えているから、とっても深く共感するのです。 生命の世界も、東洋(自然の生命)と西洋(人間の生命)では視点が違う。これは優劣ではなく、善悪でもない。層の違い。そうした生命観を単に混ぜ合わせるのではなく、化学反応を起こしながら深めていく。

同志めいたものを感じました。 紫舟さんと、会の前後で個人的に話させてもらったのもそのあたりで。

・・・・ 今度、アーティストである大山エンリコイサム(Enrico Isamu Oyama)さんとの対談も持ち上がっていて、文字というものに今深い関心を寄せていたところでした。

大山エンリコイサムさんは、NYのグラフィティの文化を深く深化・新化・進化させようとしているかた。

大山エンリコイサム 個展「Black」@Takuro Someya Contemporary Art(東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 3F)(2018年11月22日-12月22日:開館11:00-18:00 休館日:日、月、祝)

日本や中国の書の歴史とも何か相通じるものがあり・・・・

とっても刺激を受ける時間でした。あっぱれな方だ!!! 人柄も、春のつむじ風のようにさわやかで。

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