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DVDブック「ヒルデガルト 緑のよろこび」

October 3, 2017

●植物原理(October 2, 2017)
の記事とも関連性のある話題です。

植物の力を信じて徹底的に探究した偉大なひとりの中世の女性について。

 

 

ゆっくりクラウドファンディング「ヒルデガルトDVDプロジェクト」にて、DVDブック「ヒルデガルト 緑のよろこび」が完成しています。(→Amazon

 


自分もこちらに「万華鏡の泉」という文章を寄せています。
上野さんたちのセンスでとても素敵なDVDブック!

 

 

 

 

ゆっくりクラウドファンディング「ヒルデガルトDVDプロジェクト」

 

10月15日に一般発売で、10月からは、全国津々浦々で上映会もはじまっているみたいです!これもお薦め!

スロー・シネマカフェ(上映会)

 

ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(Hildegard von Bingen:1098 -1179年)は、ベネディクト会(キリスト教のカトリック教会最古の修道会)の女子修道院長という宗教家でありながら、あらゆる領域を横断し続けた偉大な女性。

 

医学、薬学、音楽、数学、芸術、詩作、言語学、宇宙論、、、あらゆる世界で業績を残しています。多くの分野を独自の視点で探求し続けた女性です。

 

自分は、

種村季弘さんの「ビンゲンのヒルデガルトの世界」青土社(1994年)

の著作で初めて彼女を知り、魔女狩りの嵐になる直前の時代に、女性ひとりの力でここまで果敢にあらゆる領域を横断した偉人がいたのか!と驚いたものです。

 

 

 

医療の歴史においても、かなり重要な人物だと個人的に思い続けているので、こうしてDVDブックになって多くの人の目に触れるのは嬉しい。

 

 

彼女の音楽もすごいんですよ。

CDだけじゃなくて、レコードも持ってます(LPは偶然見つけて感動したー)。

 

 


Youtubeでも聞けます。

●Hildegard von Bingen - Music and Visions

 

●Hildegard von Bingen - Voices of Angels - Voices of Ascension

 

 

いづれにせよ、発売されたら、ぜひ手に取ってご覧ください!

 

 

 

 

万華鏡の泉

 

ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098 -1179年)は、ベネディクト会(キリスト教のカトリック教会最古の修道会)の女子修道院長という宗教家でありながら、あらゆる領域を横断し続け、この世界の謎や神秘を探求した女性だ。

 

宗教的生活を主軸としながら、医学、薬学、音楽、数学、芸術、詩作、言語学、宇宙論、に至るまで、あらゆる分野を独自の視点で探求し続けた。内的世界の探求だけではなく、外界の現実にも果敢に挑み続けた行動する女性でもあった。時代が少し違えば魔女狩りと称して火あぶりにされてもおかしくない時代だが、彼女はそうした時代の隙間から叡智の泉が溢れるように活躍した。

 

医学においては、特に薬草(植物・本草)への造詣が深く、食事の重要性に関しても説いている。ヒルデガルドは、古代ギリシャやガレノス(西暦200年頃)の時代から伝わるように、4つの元素(火・空気・水・土)と4つの体液(黄胆汁質・多血質・粘液質・黒胆汁質)が人体を構成しており、そのバランスが崩れると病になり、そのバランスを取り戻すことが健康に通じる、という考え方を持っていた。生きていることそのものが生命の叡智の表現であり、生命の調和に愛や敬意や畏怖を持つことが大前提だからこそ、植物などの自然の力(ヒルデガルドは「ヴィリディタス(緑の力)」と表現している)の恩寵を受けて人間が生きていくことを唱えた。4つの根源的な要素が人体を巡り調和させているという考え方は、人体という枠を超えて自然や宇宙の調和へも拡大する。つまり、人体を学ぶことは自然や宇宙を学ぶことに通じ、ミクロコスモス(人体)とマクロコスモス(宇宙)とはサイズやレイヤーが違うだけで、同じ原理で共鳴しあう部分と全体であると考えた。神の調和の世界も、音楽の調和の世界も、言葉の調和を奏でる詩の世界も、内的イメージ世界が捉えるVisionの世界まで、彼女の中ではすべてが強い関係性を持ち共鳴していた。

 

ヒルデガルドの時代から700年ほどだった時代に、西洋医学の曙と言われる発見があった。ドイツの医師であるウィルヒョウ(1821-1902年)が、「体液病理学説」に対して「細胞病理学説」を提唱したのだ。これは、人の体は細胞からできていて、その細胞が病気になることで体の病気が引き起こされる、という考え方である。そのため、病気をまず病理学的に定義し、敵である病と闘い、病を撲滅することで病気を治そう、という発想が生まれることになる。現代の西洋医学は、自分の体を戦場とみなし、病と闘い続けることを至上命題とした。確かに、そうした人体の見方は、感染症や、戦争などの外傷への急性期治療には大きな役割を果たした。ただ、そこに調和や自然や宇宙という発想は全く用なしとされた。人体を循環しているとされていた4つの元素や体液も物質として同定されないため、間違った考え方として葬り去られた。

 

 ただ、ヒルデガルドの時代に大切されていた本質は、人の体を一つの調和の場として見ることであり、循環的に調和的に体や生命を見る視点のことだっただろう。人体は内なる自然であり、宇宙や大自然など外なる自然と深い関係性で結ばれているという見方にこそ本質があったのだと思う。ヒルデガルドの神秘や謎を探求し続けた姿勢は子供のように純粋で切実だ。

 

音楽家の武満徹さんは、『Mirror』というエッセイでこうした言葉を残している。

 

「音楽は個人がそれを所有することはできない。

が、しかまた、音楽はあくまでも個からはじまるものであり、他との関係の中にその形をあらわす。

しかもこれは社会科学的なテーゼではなく、むしろ神学的主題なのである。

友が言うように、音楽は祈りの形式(フォーム)であるとすれば、人間関係、社会関係、自然との関係、(そして、神との関係)すべてと関わる関係(リレーション)への欲求を祈りと呼ぶのだろう。

たしかに私は、音楽がそこに形をあらわすような関係というものをまちのぞんでいる。」

 

武満さんの言葉は、音楽だけではなく医学にも通じる普遍的なことを述べている。ヒルデガルドも、人間を取り囲むあらゆる存在との関係性を必死で取り戻そうとしていたのだろう。12世紀のヒルデガルドから、21世紀の私たちが受け取ることは、そうした自然や宇宙との新しい関係性を私たちが再度取り戻すことだと思う。ヒルデガルドが何を見て何を聞いて何を感じ、何を未来に託したのか。先人の思いを受け止め、次の世代へと受け渡していく必要がある。ヒルデガルドというドアを開ければ、求めに応じたものがタイムカプセルのように時空を超え、深い叡智の泉から万華鏡のように開示されるだろう。

 

 

 

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