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まだ生まれていないものをあたためる@inadani sees(伊那市産学官連携拠点施設)

10月25日
読了時間: 4分

「身体性から自分の根を見つめる」というワークショップで、inadani sees(伊那市産学官連携拠点施設)へ。





その前に、近くの「みのわテラス」でランチをいただいた。伊那谷の国産牛を大切に使った、とてもおいしい食事。土地の恵みを味わい、伊那谷との出会いがお腹の中から始まった。ぜひ立ち寄ってほしい場所です。





inadani seesは「農と森のインキュベーション施設」。地域の自然を生かした企てが、人との出会いを通して形になっていく。「sees」の響きには、種を意味する「seeds」も重ねられている。


企画運営に携わるのは、「やまとわ」の奥田悠史さんたち。「森をつくる暮らしをつくる」を掲げ、経木や家具を通して森と日々の生活を結んでいる。薄く削られた木が食べものを包み、身近な森の木が暮らしをともにする家具になる。木を使うことが森を育てる営みにつながる、その仕事に心をひかれる。





インキュベーションの語源は、ラテン語のincubare。「横たわる」「上に伏す」という意味から、親鳥が卵を抱いてあたためることにもつながる。奥田さんたちも、その由来に立ち返り、自然に孵るための環境を整えることを大切にしているという。



この言葉は、医療の歴史にも通じている。西洋医学の源流の一つ、古代ギリシアのアスクレピオス信仰。その聖域では、人々が身を横たえて眠り、夢の中に癒やしや治療への導きを求めた。この営みも「インキュベーション」と呼ばれる。



安心して身をゆだねるうちに、張りつめていた心が休まり、忘れていた感覚が戻ってくる。生き方を見つめ直すきっかけが、そんな静けさの中に宿ることもあるだろう。私が考え続けている「治る場」と、伊那谷の取り組みが響き合う。





今回のワークショップでは、伊那市民の森で五感をひらいた。散歩コースもたくさんあり、素晴らしい憩いの場。



大切にしたのは、童心にかえること。


足の裏で地面を感じ、木々の間を抜ける風に気づく。遠くに耳を澄ませると、それまで聞こえていなかった音が届き始める。身体の感覚に注意を向けるだけで、世界との距離が変わっていく。



童心とは、世界に初めて触れるような心だと思う。「知っている」と通り過ぎる手前で立ち止まり、身体がひかれるほうへ近づいてみる。役に立つかどうかを忘れ、ただ面白がってみる。



心理療法で使われる「インナーチャイルド」は、自分の内に生き続ける幼い頃の感情や感覚を見つめるための概念だ。成長するまでにしまい込んだものの中には、傷つきとともに、夢中で遊んだ喜びもある。大人になった身体で、その喜びに出会い直すことができる。


横尾忠則さんは「芸術は、いつも子どもっぽく遊べることが大事なのです」と語っている。ピカソに帰される「子どものように描くには一生かかった」という言葉も思い出す。


童心にかえることは、それ自体が芸術なのだと思う。見慣れた世界に驚けるとき、こわばっていた心も動き始める。そこに、芸術と治癒の接点を感じる。




森では、一本の木をゆっくり感じる時間をつくった。


その木に注意を向けて過ごすと、それまでひとまとまりだった「森」に、それぞれ異なる木の姿が現れてくる。帰る頃には、一本一本がこちらに語りかけてくるような気持ちになった。変わったのは、木々との間に生まれた関係なのだろう。


どんな森も、一本の木から始まる。



人間社会も、目の前の一人に出会うところから始まるのではないだろうか。「地域」や「社会」という大きな言葉の中にも、一人ひとりの固有の時間が流れている。一人を深く知ることで、周囲の人々まで違って見えてくる。森全体を思うまなざしは、一本の木に触れる手の先から育つのかもしれない。





絵本の読み聞かせも、ともに行った。大人になって誰かに読んでもらい、自分の声でも物語を届ける。同じ文章でも、読む人が変われば響きは変わる。息を継ぐ間に、その人らしさがふっと現れる。


声には、その人がいる。


聴く側にも、それぞれの風景が生まれる。物語が遠い記憶や想像と結びつき、ふだん意識の届かない心の奥へ道をひらく。ゆっくり朗読すると言葉の間に余白が生まれ、次の言葉を待つうちに、体内を流れる時間までゆるやかになっていくようだった。


森の気配を受け取った身体で、人の声を聴く。その響きに導かれ、自分の根にも触れていくような4時間だった。



ご一緒くださった皆さん、奥田さんをはじめinadani seesの皆さん、ありがとうございました。

まだ形にならない可能性を、その人や土地に固有の時間の中であたためる。伊那谷には、未来を育てる手がある。

森を出たあとも、出会った木々の気配が身体に残っている。

自分の根もまた、見えないところで、この世界につながっている。



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