「一本の鉛筆」と平和


第8回「今こそ永遠」(FM軽井沢)をお聞きいただいた方、ありがとうございました。


8月はお盆を経て終戦の日であり、アフガニスタンで活動された中村哲先生の話をしました。

中村哲先生は、2019年12月4日、アフガニスタンのナンガルハル州ジャラーラーバードにて、武装勢力に銃撃され死去されました。73歳でした。


哲先生はそうした事情もすべて覚悟した上で、医療、医業、医術・・・医をすべて含んだ井戸掘りという行為に取り組まれていたから、我が人生に悔いなし、とおっしゃるだろうと思います。


中村哲先生の医療は「人助け」が目的だからこそ、その目的を外さないようにすると結果的に井戸掘りにつながっただけで、自分行為はすべて医療であるというのは当たり前のことでした。

日本の「常識」は、単に偏見の寄せ集めや集団の圧力だったりしますが、本来の「common sense」とは「共通感覚」のことで、通常の感覚で深めていけば誰もが到達する真理こそが「common sense」です。


哲先生は、そうした「common sense」をこそ大切にしていたのだと思います。だからこそ、自分も今何をするべきか、「common sense」をこそ働かせたいと日々思っています。

強い思いを持ち亡くなった方、残された思いを引き継ぐのは、他の誰でもなく、こうして生きている者たちだ、と思います。生きているだけで、常に生命のトーチは渡され続けていて、この当たり前の事実を、改めて突き付けられたように感じました。



1曲目でご紹介した曲は、美空ひばり「一本の鉛筆」(1974年) 松山善三(作詞) 佐藤勝(作曲)


●美空ひばり「一本の鉛筆」









ひばりさんが広島平和音楽祭に出演するにあたって、総合演出を担当していた映画監督、脚本家の松山善三が作詞を、作曲を映画音楽の作曲で有名な佐藤勝が手がけました。


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あなたに 聞いてもらいたい

あなたに 読んでもらいたい

あなたに 歌ってもらいたい

あなたに 信じてもらいたい


一本の鉛筆が あれば

私はあなたへの 愛を書く

一本の鉛筆が あれば

戦争はいやだと 私は書く


あなたに 愛を送りたい

あなたに 夢を送りたい

あなたに 春を送りたい

あなたに 世界を送りたい


一枚のザラ紙が あれば

私は子どもが ほしいと書く

一枚のザラ紙が あれば

あなたをかえしてと 私は書く


一本の鉛筆が あれば

八月六日の 朝と書く

一本の鉛筆が あれば

人間のいのちと 私は書く

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一本の鉛筆は、わたしたちの内なる思いを言葉として引きずり出すための道具の象徴。

戦争という非人道的な時代には、人は簡単に冷酷になります。

人間が影として持っているエゴイズムが水や栄養を与えられて表に出てくるのです。

だからこそ、そうした人間の負なる心に水や栄養を与えない時代にする必要があります。コロナ禍の中でも差別や分断が起き続けるのは、そうした人間の負の側面に、誰かがせっせと水と栄養を与え、育て、肥大させているのではないでしょうか。

ワクチンがとりあいになることも、そうした人間の影や闇の部分が表に出てきていると、思います。

共同体感覚を育てていくこと、平等でフェアであるとはどういうことかを、まさにいま試されているとさえ思うのです。



戦争という巨大な闇の「場」の中で、いかにして「個」の尊厳を大切にして生きていくことができるのか。

上田の「無言館」にて、戦争の真っただ中であえて自画像や風景を描き、裸婦像を描き、愛を描き、戦争画を頑なに拒んだ姿にこそ、「個」の崇高なる表現を観ました。

個人の崇高な生きざまは、生命の火として渡されて受け取り、それぞれが生きている人生の道の中で、かすかな光であろうとも灯し続ける必要があるのだと思います。

火を絶やさないように大切に抱きかかえながら。

火はどれだけ分配しても決して減ることはありません。

どこかしら受け取った人の中で、静かに燃え続けているものですから。



2曲目は、元ちとせさんの「語り継ぐこと」(2005年) を選曲しました。

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「消さないで あなたの中の

ともしびは連なり いつしか 輝くから」

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「語り継ぐことや伝えてゆくこと

時代のうねりを渡っていく舟

風光る 今日の日の空を

受け継いで それを明日に手渡して」

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「この世界

生まれてそして

与えられたあらゆる名前に

願いがある」

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言葉に出して語り継ぐくこと。

祈りのように謳いあげています。





1曲目:美空ひばり「一本の鉛筆」(1974年) 松山善三(作詞) 佐藤勝(作曲)

2曲目:元ちとせ「語り継ぐこと」(2005年) 作詞:HUSSY_R、作曲:田鹿祐一、編曲:常田真太郎




次回の放送日は2021年9月26日(日曜)(AM10:30-10:55)(FM軽井沢 77.5MHz)です。ぜひお聞きください~。



追伸

このレコードは、「一本の鉛筆」が収録されているわけではないのですが、美空ひばりさんの「ひばり世界をうたう」です。

1964年に発表された美空ひばりさんの世界の名曲集、カンツォーネ、ロシア民謡、ラテン、スコットランド民謡など・・・、素晴らしい歌唱力で、愛聴しています。