top of page

「ロン・ミュエク」展@森美術館

  • 5月6日
  • 読了時間: 2分

「ロン・ミュエク」展@森美術館。




ロン・ミュエク(Ron Mueck)は、映画や広告業界で特殊効果やモデルビルダーとして20年以上のキャリアを積み、アーティストに転じた。



生命感あふれる質感を、異常なサイズ感で強調するように表現する。



表面上でのリアルを追求しながら、内側にある命を表現しようとしている。特に、孤独、不安、弱さ、そして強さなど。人間なら誰もが抱える内面的な感情を彫刻に投影する。



多くの作品は誰にも視線を合わせず瞑想的なポーズをとっている。能舞台や菩薩像のように、他者との不思議な距離感がある。

だからこそ、観る者が自らの内面を鏡のように見つめ直す機会となるのだろう。



生きているように見えるが人工物。という作品は、リアルとバーチャル、真実とフェイクが入り混じる現実世界を象徴しているようにも思える。



きっと、多くの人が作品に並んで記念撮影したい欲望に駆られるだろう。




・・・・


作品を観ていてふと頭に浮かんだのが、村上春樹さんの『象の消滅』という作品。



町の象徴であった象と飼育係が、ある日突然消えてしまう。主人公の「僕」は、消滅の直前に象舎をのぞき見した時、象と飼育係の体の大きさが同じになっている奇妙なバランスの変化を目撃していた。その後、「僕」は電化製品の宣伝という「便宜性」だけを追求する仕事に戻るが、この世界への違和感や不均衡を感じるようになってしまう。


というような話。



象のサイズが変わり、そして消失した後、主人公の「僕」は周囲の人々との深い繋がりを持てなくなり、精神的な孤立を深めていく。



「サイズの狂い」が、日常のリアリティを崩壊させるトリガーとなる。


ミュエクの「極端なスケール操作」が観る者に衝撃を与えるように。



巨大な象の存在感と、それが突然に失われる虚無感は、ミュエクの彫刻が放つ静かな孤独感に通じるものがある。



象の消滅。


この世界から本質的なものは消えても問題にされず、この世界は便宜的な正しさ(つじつま)だけで回っている、という空虚さ。


そして、象が消滅したことに関して、本当の真実を知っている人間は、その瞬間から世界の中で永遠に孤立してしまう、という孤立感と孤独感。



ロン・ミュエクの作品は、見ている側の個人的な体験や記憶を揺さぶる作品群。


自分は、村上春樹「象の消滅」を読んだ時に、動いた心の層が揺らぐのを感じた。



ロン・ミュエク

2026.4.29(水)~ 9.23(水)

森美術館



コメント


© All right reserved TOSHIRO INABA

bottom of page