雷滝で水の風景の内側へ。
山田温泉、七味温泉と、松川の流域にある湯を訪ねる中で、雷滝にも立ち寄った。
長野県高山村、松川渓谷にある「裏見の滝」。
名前の通り、滝の裏側から流れ落ちる水を見ることができる。
滝の裏に入れることに、まず驚く。
滝が目の前を覆う水の幕になる。その向こうに岩や木々が見える。風景を見ていたはずなのに、いつの間にか、その風景の内側に立っていた。
圧倒的な水量だった。
絶え間なく落ちる水と、身体にまで響いてくる轟音。「雷滝」という名が、耳だけでなく、全身で分かる。

さらに印象に残ったのは、空気中を飛び交う水粒子だった。細かな水滴が光を受け、流れ、舞い、こちらへ届く。水は川や滝の中だけにあるのではなく、空気の中にも広がっている。周囲の空間そのものが、水のエネルギーで満ちているように感じた。
それは、落下する水が持つ力が、音や風や飛沫へと姿を変え、身体に届いてくる体験だった。

水には、いろいろなものを洗い流す圧倒的な力がある。
岩を削り、砂を運び、長い時間をかけて谷をつくる。その水の前に立つと、頭の中で繰り返していた考えも、日常の細かな気がかりも、しばらく遠のいた。何かを解決したわけではない。ただ、考え続ける力よりも、目の前の水の力のほうが大きかった。
音を聞き、水滴を感じ、流れを見ているうちに、身体が今いる場所へ戻ってくる。
温泉を巡る流れで訪れたことも、この体験を深くした。
七味温泉では、地下から届く熱を、白濁した湯の中で受け取った。
松川の河床では、水に運ばれた成分が石の色となって現れる様子を眺めた。
そして雷滝では、水が落下し、砕け、空気へ広がる力に包まれた。
湯の熱、石の色、滝の轟音。
同じ流域をたどりながら、水がこんなにも異なる表情を持つことに驚く。
山に降った水が地表や地下を巡り、岩石や熱に触れ、やがて川へ集まっていく。その大きな循環の中に、温泉も滝も、私たちの身体もある。
温泉では、湯に身体を預ける。
滝の裏では、流れ続ける水の前に身体を置く。
どちらも、水との距離が近くなることで、自分の感覚が変わる。眺めているだけでは分からなかったものが、皮膚や耳や身体全体を通して分かってくる。



雷滝を離れてからも、水の音と、空気を満たしていた細かな水滴の感覚が残っていた。
湯に包まれ、川の色を見て、滝の内側に立つ。
松川渓谷を巡る旅は、水を通して、地球と身体のつながりを感じる時間だった。
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