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映画「七つの会議」(原作:池井戸潤、監督:福澤克雄)

野村萬斎さん主演の、「七つの会議」(原作:池井戸潤、監督:福澤克雄)を観てきた。

なぜなら、世界に誇るアーティストの中のアーティストだと思う野村萬斎さんの動向は常に見逃せないから。

磁場のように、いま必要なものを吸い寄せ、その濁流を軽みに泳ぐ萬斎さんの動向は、いま時代が必要としているあらゆる無意識を吸着していると、思う(それは村上春樹さんも横尾忠則さんも同じ)。

もともと、狂言(や能)という世界は、これほどインターネットが栄える前、室町時代のときからバーチャルリアリティーをやっている。舞台には何もない。観るものが、そこにリアリティーを付加することで、能や狂言はバーチャルに完成する。今は、そうした人間に内在するイメージの力が外在化されただけ。映画もそのひとつと位置づけ、萬斎さんはあえて映画界にも打って出ているのだと、自分は思う。

 

「七つの会議」のストーリーは、シンプルで分かりやすいものだった。ある大企業のパワハラや隠ぺいなどの企業体質を克明に描いたもの。

日本は、会社というものが疑似家族になっていて、昔では村社会、幕藩体制、のようなもので、あらゆる形に変化しながらも同じスタイルが底流している。

日本人は、ただ「日本人」というだけで何かつながっている感覚を持っている。「外人」「在日・・人」を無意識に差別する。そこでは「内と外」とを強く峻別して区別して、内側は母性的な被膜で守られた空間を作り、内側だけで通用する理屈をつくりやすい。「外人」とは、まさに「外の人」だからだ。その理屈は内側には通用するが、外側の世界ではまったく通用しない。だから壁や砦は厚くつくられる。その利点は、内側にいることは守られていることでもあるからだ。安全・安心との交換条件で、そうした村社会をつくり上げている。そこは胎児や赤子や子供が包まれるような母性的な空間。そして、日本の会社や組織は、その外側に「日本」という島国である巨大な母性空間も入れ子状に大きく包みこんでいる。この内側にいればつらくないよ、大丈夫だよ、という繭のように。

ただ、そうした閉じられた場所は外部との交通が亡くなると隠ぺい体質をつくることになる。そこでしか通じない記号的な会話がやり取りされ、閉鎖的な村社会を作ることにもなる。

そうしたことは、おそらく「会社」の世界だけではないだろう。日本にある色々な組織が、そもそも「日本」という国自体が良くも悪くも持っている体質だ。

内部では空気を読み、つながっていることを求める。

その中で「個」として自立することは集団からの反乱を示すことになるため、内側だけで通用する特殊な論理で罰や制裁を受ける。

・・・

ただ、そうした悪しき組織体制は、終わりを告げようとしているのではないかと、思う。(ちなみに、Teal組織という新しい組織論によると、次の時代の組織は「生命体」のような、個々が独立して全体として調和している自己組織型へと進化していくと書かれている。組織は、軍隊型、ヒエラルキー型、能力主義、家族型組織と進化し、最後が生命体型の組織へ、と)

母性的な論理(包み込むやさしさ、飲み込まれる恐ろしさ)と、父性的な原理(切断する厳しさ、道徳や倫理)とは、ある緊張関係を持ちながら、その緊張自体をエネルギー源として母性と父性とが両立した生命のような組織作りこそが、必要となるだろう。

会社という母性空間の内側では、不正も包まれて許されてしまう。ただ、そこで厳しく理性的に判断する父性原理も必要だ。

野村萬斎さんは、強い父性を演じていた。その強い父性を支えていたものが、ある種の〈かなしみ〉である、というのも、重要なことだ。あらゆる日本の古典作品(芸能だけではなく芸術も)が、底流する〈かなしみ〉を語ってきた。

西洋の原罪に対応する、東洋では原悲。

自然が本来持つ「かなしみ」としか言えない流れ。仏教では「無常」となる(仏教では、執着も無常を知らないことから起きるため、悟りを得るためのアルファでありオメガであるのが「無常」の理解なのだ)。

「かなしみ」を深く知ったものこそが、真に強いものとなるのだろう。それは外側に見せる仮面が強いわけではなく、内側にあり支える芯こそが強いのだ。

 

萬斎さんの演技はほんとうに素晴らしく、圧倒的で。

さらに、萬斎さんを支えるあらゆる俳優陣たちが豪華で演技派揃い(香川照之、及川光博、片岡愛之助、吉田羊、立川談春、北大路欣也など・・・!)で、それもまた驚いた。

いろいろと考えさせられることが多い映画だった。

ある種の「悪」は種として植え付けられると、育つ土壌を発見し、そこで大樹として成長していってしまう。

特に、会社や組織の中で、そこの独自の論理に苦しみながらも、自分という個を大切にして生きている人、生きてきた人には、グググっとくる映画です。自分は、グググッときました。

ちなみに、主題歌はBob Dylanの〈Make You Feel My Love〉(『Time Out of Mind』(1997年)(グラミー賞も受賞したアルバムに収録)。

http://www.nanakai-movie.jp/

●「七つの会議」予告

●Bob Dylan | Make You Feel My Love (ORİGİNAL)

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