top of page

田根剛「未来の記憶 Archaeology of the Future ― Digging & Building」@東京オペラシティ

田根剛さんの個展「未来の記憶」@オペラシティを見に行く。

(田根さんとは、以前、六本木ヒルズ アカデミーヒルズでも対談させていただいた。)

展示を見てあらためて感じたのは、田根さんの建築はイメージの力をフルに活性化させて建築物をたちあげようとしている、ということだ。

最初のフロアには、「言葉」から想起されるイメージの群れがあった。

「イメージ」は、言語化できない「イメージ言語」そのものだが、イメージには「サインsign(記号)」と「シンボルsymbol(象徴)」の二つがある。 「サイン(記号)」は1対1の意味を示すものであり、道路標識のようなもの。道路標識に複数の意味が込められていたら運転者は混乱するから。 それに対して、「シンボル(象徴)」は一つが多様な意味を同時に示しているもの。

記号はわれわれの意識を一対一に縛って固くするが、シンボルは意識活動をやわらかく広げてくれる。

「シンボル(象徴)」においては、そこに複数の意味を読み解く力も必要とされる。

シンボルを読み解く力は、「土地」という膨大な歴史を含む場所において、その土地の情報を読み解く作業にも通じる。

なぜなら、砂粒一つにも地球の歴史がすべて含まれているし、地球の歴史すらも宇宙の歴史の中に入れ子状に包み込まれているものだから。

土地にも色々な歴史の層がある。

人類以前の歴史の方が数多く含まれている。膨大の死の上に、生の営みは成立している。

そうした地層の上に私たちが生きていて、そこに住まい、としての建物を作るならば、そこにはどうした意味を求めるのだろうか。田根さんの建築には、そうした哲学的思考の爪痕が残されている。

昆虫でいえば、住まいは「巣」であり、身を守るための場所になるし、動物だと自然の中、もしくは自然のものを寄り集めて作られた流動的な破壊を前提にしたものになるだろう。

人間はなぜ住まいを必要とするのか。

身を守るため、生き延びるため、という切実な命がけの要求から始まったのだろうと思う。ただ、生命の危険が守られ安全性が向上すると、住まいの意味は拡張していく。

外と内という言葉があるように、住まいはあくまでも「内」のものであり(他者を無限に誘い込みはしないだろうから)、そう考えると、わたしたちの「内なる生命」と何かかかわりがあるはずだ。

田根さんの建築は、自然が織りなす形や、その土地に含まれる膨大な過去から滋養のようにインスピレーションを受けている。それは、土地や場所との関係性を再度つくるためだろう。

コンクリートで地球を覆えば、地球と土地との関係性は一度断ち切られるが、それでもわたしたちが地球の上に住んでいる以上、足元との関係性を取り戻す必要があるからだ。

戦争の負の遺産である滑走路であっても、使われなくなった古材であっても。負の記憶でもちゃんと受け止めることで時代は過去と現在と未来という形でつながっていく。

 

田根さんのコンペに応募した作品群をじっと見ていて気付いたのは、空間の「間」の絶妙な塩梅だ。

今から600年ほど前、キリスト教が日本にやってきたとき、「アニマ」という言葉も同時にやってきた。 現地で「魂」などを意味する言葉である。

「あにま」という言葉を必死に伝えようとする異国の人々の思いを受け取り、当時の日本人は「在り間(ありま)」と漢字を当てて受け取った。

つまり、「存在と存在の間」に、何か彼らが伝えようとしている本質があるのではないかと受け取ったということだ。実際、間をつなぐ働きが「アニマ(魂)」の働きであるとしたら、それは見当違いの解釈ではない。(このことは「ころころするからだ」(春秋社)の中にも書いた)

建築や住まいにも、そうした「在り間(ありま)」が重要であり、それは人と人、人と環境、モノとコト、生命と非生命、、、、そうした存在の間をつなぐ働きでもある。 アイヌの人々は、住まいの中に必ず「心臓」を隠して据えたように、アニマ(在り間)がないと、住まいは生きていない。

 

田根さんのプロジェクトは多岐にわたっており、建築家というよりも、社会デザイン、社会彫刻に近い仕事をしている。

自分が好きな、謎を含むオペラ「青ひげ公の城」(サイトウキネン)の舞台芸術をされていたのには驚いた。

このオペラは、バルトークの唯一のオペラでもある。7つの扉を開けていき、漆黒の闇へと消えていく不可思議な話。

無意識界というイマージュの世界へと落ち込み、潜り込んでいく物語だととらえることもできる。

田根さんの創造物も、「青ひげ公の城」のように7つの無意識の層を突破するほどの無意識の深みから(さらにもっと深い場所へと・・・)、それぞれの土地の深みから立ち上がってくるものを大切にしているのだろう。

(しかも、展示場所も、東京オペラシティ!)

●Béla Bartók - Herzog Blaubarts Burg (1963) with English subtitles

田根さんは空間デザインを多く手掛けているだけあり、今回の展示の仕方も通常の建築家のそれとは違う手法で、少しフレーバーが添えられていた。抽象的な空間(夢のような)を歩くような設定にされていたように思う。

新国立競技場でファイナリストに選出された「古墳スタジアム」の模型もあった。

古墳は、古代の墓であり、それは死のシンボルだ。 古代の古墳には、死からの復活、再生の意味も込められている。(埴輪も人身御供の代わりだという説もある)  死は、類人が最初期に出会った最もイマジネーションを掻き立てられる大事件だっただろう。なぜ人は死ぬのか、死んだ人は果たしてどこにいったのか、と。もちろん、未だにその謎を人類は解決していないが、死が永遠に謎だからこそ、われわれのイマジネーションの源泉にもなっている。医療でも同じ課題を持っている。

 

自分は最初の部屋で、大いにイマジネーションをかきたてられた。 自分のイメージを活性化させるには、見ごたえのある展示でした。

今後の田根さんの活躍が、大いに楽しみだ。 ぜひ、人々が幸せで元気になるような世界一の病院の建築をお願いしたいものだ!

 

会期:2018年10月19日〜12月24日 会場:東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー1・2) 住所:東京都新宿区西新宿3-20-2 電話番号:03-5777-8600 開館時間:11:00〜19:00(金土〜20:00) 休館日:月(12月24日は開館) 料金:一般 1200円 / 大学・高校生 800円 / 中学生以下無料

同時開催「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ― Search & Research」 会期:2018年10月18日〜12月23日 会場:TOTOギャラリー・間 住所:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F 電話番号:03-3402-1010 開廊時間:11:00~18:00 休廊日:月、祝(11月3日、12月23日は開館)

bottom of page