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百鬼オペラ「羅生門」@シアターコクーン

渋谷Bunkamuraのシアターコクーンに、百鬼オペラ「羅生門」を見に行ってきた。 立ち見もいる超満員。観客の熱気と相乗効果で、本当に面白い舞台だった!

題名の「羅生門」にあるように、芥川龍之介(1892-1927年)へのオマージュとなるオペラ化だ。 ただ、「羅生門」だけではなく、「藪の中」「蜘蛛の糸」「鼻」などの、芥川の名作が、液体のように互いに混ざり合い入り混じった作品だった。

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芥川龍之介『羅生門』

ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。

広い門の下には、この男のほかに誰もいない。 ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀(きりぎりす)が一匹とまっている。 羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。

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音楽がいい!ダンスがいい!演技がいい!

「オペラ」と名付けられているのがよくわかった。

主旋律を生演奏の楽団が奏でる。 音楽はチャプターのように、場面の切り替わりの時に登場し、どこともなく消えていく。

阿部海太郎さんが作る幻想的でどこか子供っぽく茶目っ気のある音楽は見事だった。 青葉市子さん!も出ていて、まるで妖精のような存在感。音楽だけでも異界に連れていかれる。

「羅生門」で有名なシーンに、老婆が死人の髪をはぎとるシーン。そして、主人公がその老婆の服をはぎ取るシーン。そうした極限状況の中でも生きようもがく人間の極限が描かれる場面がある。

今回は、そうした人間の恐ろしい行動にも、それなりの必然的な意味と歴史があり、それはその人の人生や前世や来世、そういったものと生まれ変わりのように不思議にLinkし続けている、というような、前世や来世という長いライフスパンを考えさせられる舞台だった。

ただ、悲惨で、ただ、無慈悲なのではなく、そこに至る悲しい流れのようなものも。

「穴」という存在が象徴的に出てくる。 避難場所の「穴」であり、闇へと潜る「穴」であり、別次元への通路としての「穴」。

村上春樹作品でも「穴」や「井戸」は出てくる。不思議な国アリスも、「うさぎ穴」に落ちることから物語ははじまる。

そうした「穴」と「穴」とを複雑に行き来しながら、時間はあやとりの糸がもつれるように複雑に絡み合いながら、出来事も人物も時代も干渉しあう。

演出・振付・美術・衣裳はイスラエル出身のインバル・ピントとアブシャロム・ポラックという方。 イスラエルと言えば、一神教の宗教だと思うのだが、東洋的な輪廻や「生まれ変わり」を裏テーマに扱っていたのは見事であった。

不思議の国のアリスのように、不思議な生き物が出てくる。

「百鬼オペラ」だから、異界の存在は「鬼」でもあるのだが、そこに西洋的なスパイスが効いていて、何とも言えないユーモラスでファンタジックな生き物がたくさん出てきた。かわいくも、恐ろしい。

風景描写や場面転換の時は、音楽と共にダンスがとても有効に使われていた。

肉体を躍動させてユーモラスに踊るダンスは、お客さんの筋肉が緊張したり弛緩したりするのをアシストしているようだった。

音楽が、観客の意識の場面転換を担当し、ダンスが観客の筋肉の場面転換を担当しているように。

客席の意識も体も、大河を流されるように、いづこかへと、運ばれてゆく。

ダンスは、思わずこちらの身体が同期して動いてしまうような、リズミカルで、それでいて躍動感のある動き。

飛び跳ねるように。天と地を結ぶように。サバンナで生きる野生動物のように。

柄本佑さん、満島ひかりさん、吉沢亮さんの演技も、瑞々しく、それでいて時に弾けるようなエネルギーが舞台を巻き込んだ。

音楽やダンスと演技の三位一体。

そこを支える物語としての骨格。

物語に色彩を与える美術。

新しい世界観の創出。 そうしたものが高いバランスでできあがった素晴らしい舞台!!! もう一つの現実(Reality)を立ち上げていく力はすごかった。

西洋のファンタジーやメルヘンと日本の物語。

生や死、前世や今世や来世など、異質なものが「穴」によって次元を超えてつながり続ける面白い舞台でした!!

立ち見席も出ているようなので、予約できなかった方は是非行ってみてください!!

東京だけではなく兵庫、静岡、名古屋にも巡回するみたいです。

 

【東京公演】Bunkamuraシアターコクーン 公演日程 2017年9月8日(金)~9月25日(月)

【兵庫公演】兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 公演日程 10月6日(金)~10月9日(月・祝) 【静岡公演】富士市文化会館ロゼシアター 大ホール 公演日程 10月14日(土)15:00、15日(日)13:00 【名古屋公演】愛知県芸術劇場 大ホール 公演日程 10月22日(日)13:00/18:00

<スタッフ> 原作:芥川龍之介 脚本:長田育恵 作曲・音楽監督:阿部海太郎 作曲・編曲:青葉市子、中村大史 演出・振付・美術・衣裳:インバル・ピント&アブシャロム・ポラック 照明:ヨアン・ティボリ 音響:井上正弘 ヘアメイク:宮内宏明 稽古ピアノ:大塚 茜 演出家通訳:角田美知代 振付助手:皆川まゆむ 演出助手:西 祐子 舞台監督:山口英峰

<出演> Cast 柄本 佑、満島ひかり、吉沢 亮、田口浩正、小松和重、銀粉蝶 江戸川萬時、川合ロン、木原浩太、大宮大奨 皆川まゆむ、鈴木美奈子、西山友貴、引間文佳

Musician 青葉市子、中村大史、権頭真由、木村仁哉、BUN Imai、角銅真実

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