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Jay Rubin「村上春樹と私」


3度の飯より村上春樹が好きな自分としては、『1Q84』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』の英訳をしたJay Rubin氏の著作「村上春樹と私」東洋経済新報社 (2016/11/11)は読まずにはおれなかった。

========= <内容紹介> 「私は完全に村上作品に魅了されたのだ。専門的な学者としてよりも一個人として、ただのファンとして、村上作品に夢中になった」――日本の近代文学の研究者であり、ハーバード大学教授であったジェイ・ルービン氏。ひょんなことから、当時話題になっていた村上春樹作品『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読んで、度肝を抜かれたという。それ以来、村上作品のファンとなり、村上作品を世界に紹介する翻訳者となっていく。 本書は、『1Q84』『ねじまき鳥クロニクル』をはじめとする村上春樹作品、夏目漱石『三四郎』、芥川龍之介『羅生門』など数多くの日本文学を翻訳し、その魅力を世界に紹介したジェイ・ルービン氏が、村上春樹さんとの出会いと交流、日本文学の翻訳の難しさ、そして愛する日本のことを綴る好著である。 =========

Jay Rubin氏は芥川龍之介、夏目漱石の英訳もされている方で、そうした記述も多く、改めて芥川龍之介、夏目漱石も読み直してみたいと思った。 Jay Rubin氏が、春樹作品の熱烈な一ファンとして翻訳をはじめられたことに、同じファンの立場としてうれしかった。 村上春樹を読まない人生は、自分はもう考えられな。血肉の一部になっている。 ちなみに、自分も英語の勉強のためにMurakami Harukiの英訳本を何冊か読んでいる。Jay Rubin氏の英訳版『Norwegian Wood』も読んだ。次は1Q84。

村上春樹さんと私的な交流をしている人しか知らないエピソードがちょこちょこ挟まれていて、興味深いものがあった。 あと一歩で二人が自動車事故死していたかもしれないエピソードにはぞっとしたし、その情景自体が春樹作品のパラレルワールドの一節のようなものだった。月は一つか?二つか?

Jay Rubin氏は能への造詣も深く、この著作の中に能楽師の武田宗典さん!の写真が出ていたのには驚いた。アメリカでの能の公演(『巴』『yoshinaka』)の紹介。読書中に思いがけずに知っている方が出てきたのには感動した。

この本を通して、芥川作品と漱石、春樹作品も読み直したいと思った。 そういえば、医療催眠学会への論文を年末に書きあげた。そこに近代催眠の歴史を光も影も詳細にトレースした。催眠の英語の本を最初に翻訳したのは、実は夏目漱石だ(1892年に25歳の夏目金之助(漱石)がイギリスの眼科医で医療ジャーナリストであるハート(Ernest Abraham Hart)が書いた「催眠術」を翻訳作業している)。

2017年2月には、書き下ろし長編小説が新潮社から出るという。 『海辺のカフカ』より長く『1Q84』よりも短い全二冊。 あと一カ月が待ち遠しすぎる。春樹作品を同時代に読めるだけでも生きている喜びを感じる。同時代を呼吸していることが嬉しい。 今年もいいことがたくさんありそうだ。

■村上春樹『ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編』 「あるいは世界というのは、回転扉みたいにただそこをくるくるとまわるだけのものではないのだろうか、と薄れかける意識のなかで彼はふと思った。 その仕切りのどこに入るかというのは、ただ単に足の踏み出し方の問題に過ぎないのではないだろうか。 ある仕切りの中には虎が存在しているし、別の仕切りの中には虎は存在していない ーー要するにそれだけのことではあるまいか。そこには論理的な連続性はほとんどないのだ。」

■村上春樹『ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編』 「正確に言えば、僕は君に会うためにここに来たわけじゃない。君をここから取り戻すために来たんだ」

P.S. 春樹さんの新作が発表されましたね。発売は2月24日。タイトルが『騎士団長殺し』[第1部 顕れるイデア編][第2部 遷ろうメタファー編]。タイトルが神話的な内容。フレイザーの金枝篇か?  イデアとメタファーが副題なんて、まさに自分が体や心や生や死や人生でテーマにしている内容そのもの。楽しみすぎて鼻血が出そうです。 翌日が長沼敬憲さんに鎌倉で講演を頼まれた日だが、徹夜読みすべきかどうか?!すでに迷う。

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