96年前の記憶
- inaba
- 2018年7月18日
- 読了時間: 2分
往診にて。 99歳のおばあさんの誕生日。 鹿児島生まれ。頭もはっきりしていて、仏様のような存在感を出している人。 いつも鹿児島の話を聞く。 自分も熊本で、母方が鹿児島だから、近いものを感じる。
誕生日おめでとうございます。世界一素敵な99歳ですね。今年は99歳、来年は100歳ですね、 と、話す。
6年往診をしているが、はじめてのエピソードを聞いた。
「自分の母親は自分が3歳の時に死んだんだよね。 盲腸とかなんとか言ってたみたい。当時は手術なんてなかったから。 だからお母さんの記憶はないよ。お父さんが男手ひとつで育ててくれた。 でも、自分は成人してすぐに家を出たんだよね。 なぜかわからないけど飛び出したね。 ほんとうはお父さんには感謝してる。 たぶん負担をかけたくなくて、何も言わずひとり飛び出したんだろうね。 でも、そのことをちゃんとお父さんに伝えれなかった。いまでも後悔してるなぁ。
小倉、岡山、神戸、京都、、、色々なところを転々としたなぁ。 夜のお祭りでの縁日で、ゆで卵を食べたのがすごくおいしかったのをよく覚えている。
お母さんの記憶がまったくないかって? 実は、いま、思い出したんだよ。
自分の手が見える。 その手は湯呑(ゆのみ)のようなものを持とうとしている。 湯呑から湯気が出ている。 熱い湯呑。触れないくらい熱いんだけど、自分は必死に持とうとしている。
その湯呑を、床で寝ている人に渡そうとしている自分がいる。 いま思えば、その寝ている人がお母さんなんだよね。 でも、お母さんが生きているのか、もう死んでいるのか、よくわからない。
でも、その寝ているお母さんに、熱いお茶の湯呑を渡そうとしているのだけは分かる。 自分が渡そうとしているのか、周りからそうさせられているのかは、わからない。
熱い湯呑と、立ち昇る湯気。 自分の手と、床に寝ている女性。
この4つの記憶が強力にある。 でも、今まで思い出したことはなかった。
99歳のお祝いを先生にしてもらって、 突然この記憶がよみがえったよ。 不思議だね。ありがとうね。」
語りを聞きながら、自分にもその映像が明確に浮かび、その場にいるような気持ちになった。
すごく暑い日が続くから、 お互い、意識の紐がほどけて、意識が束となって時空を超えてつながったのかもしれない。
暑い日の出来事。

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