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映画「KUICHISAN」(監督:遠藤麻衣子)

映画「KUICHISAN」(監督:遠藤麻衣子)を渋谷のイメージフォーラムに見に行った。素晴らしい映画だった!

1週間だけのレイトショーだからか、5/12土曜は初日で満員だった。

前評判で、かなりぶっ飛んだ映画だと聞いていたが、実際はすごくイマジナティブな映像の連続で、プロットの骨格も奥深くにしっかり存在していて、実験映画のように構造は解体されていない。

音楽が、映像を説明したり心理描写をするものではなく、映像と音楽とが主従関係にあるのでもなく、ほぼ同じ立場で自己を主張している。

そうした映像と音楽との緊張状態も、この映画を引っ張っていく大きな要素だった。 映像と音楽、どちらかにも傾かないように不安定な状態でバランスをとる。そこが遠藤麻衣子監督のセンスであり、映画そのものを引っ張っているメインテーマそのものでもあったと思う。

------------ (HPより) KUICHISAN 米兵が行きかうとある沖縄の町。少年は、この世の終わりが来るのを、コーラフロートを飲みながら待っている。淡々と進む夏休み、ある出会いをきっかけに、少年は自分の中に渦巻くものを感じ始める。渦巻はやがてその島の持つ自然の力と一体となり、少年をいざなっていく。 ------------

「この世の終わり」というのがひとつのテーマになっているが、キリスト教のヨハネの黙示録のような終末思想では決してなく、「こどもの終わり」という世界を感じた。これは、誰もが通過する場所だ。 天才漫画家の楳図かずお先生は、「14歳」がこどもの終わりの時期であるとして(実際、自分の中の時計の針が刻まれるのを感じたと)、その時期を執拗に描きつづけている。

子供の世界が終わる、ということは、内的体験では「世界の終わり」とほぼ同等の重さを持った体験なのではないだろうか。みんなが忘れているだけで。

こどもの世界では、光と闇、古代と近代、霊的世界と物質的世界、神話的世界と現実世界、日本と海外、、、、、あらゆる対立物は溶けあったりしない、簡単に妥協して握手をしない。常に緊張状態にある。光と闇は違うものとして背中を接しながらも、常に相互に力のやり取りを行う緊張状態にある。 大人になると、そうした異なる世界は容易に混ざり合い、和解してしまう。 別の言い方をすれば、こどもの時代しか、そうした緊張状態に耐えうる力を持っていない。 ただ、こどもは、異なる二つの世界が手を結ぶことがそう簡単に許せない。真実とウソ。こどもとおとな。聖と邪。

遠藤監督は、こどものときの、異なる世界が緊張状態を持ちながら主従関係を持たず存在していた状態を、魂の核に大切に抱きかかえている人だろう。創作の源として微熱のように発熱し続けている。解熱剤で熱を下げたりしないし、その熱を自分に隠さずに生きてきた。

そして、映画の舞台である沖縄という土地は、まさにそうしたあらゆる対立物を含んでいる土地でもある。

映画は少年の視線で進んでいく。 視点もあやふやで、うつろで、どうしても近視眼的になる。映像を体験することで、観客の心を子供時代のあやふや視線に戻すように。理屈や感情ではなく、感覚と直感という理性を超えた場所で躍動していたこども時代を思い出すように。

光と闇、古代と近代、霊的世界と物質的世界、神話的世界と現実世界、、そう容易く和解しない。ただ、まわりのこどもたちは少しずつ大人になっていく。こどもの社会からおとなの社会へと境界を超えていく。

少年は、境界の内側で踏みとどまり続けている。「こどもの言葉」を護符のように必死に守りながら。 ただ、最後、彼は先に進んでいくことを決意する。それは跳躍であり、決別であり、「こどもの儀式」のようなものだ。

・・・・・・ 最後まで、光と闇の緊張状態が和解せず続いていくところが、本当に素晴らしかった。

それは、映像と音楽とが緊張状態を続けながら、その緊張の力をむしろ先に推進力へと変換しながら映画が先へと進んでいくことと似ていた。

明日は「TECHNOLOGY」という別の作品だ。 音楽をバックグラウンドに持つ遠藤麻衣子監督の作品は、音楽と映像の関係性においても、誰の真似でもないオリジナルな作品を立ち上げていると思う。すばらしい。余韻が深く残る。

今後がさらに楽しみな人だ。

============ 映画「KUICHISAN」 製作・監督・脚本・編集:遠藤麻衣子 音楽:服部峻/小林七生/J.C.モリスン/加藤英樹/ブライアン・ハーマン/遠藤麻衣子 出演:石原雷三/エレノア・ヘンドリックス他 配給:A FOOL (2011年 日本、アメリカ 76分)

映画「TECHNOLOGY」 監督・撮影・録音・編集:遠藤麻衣子 音楽:服部峻 出演:インディア・サルボア・メネズ/トリスタン・レジナート/スレンダー他 配給:A FOOL (2011年 日本、フランス 73分)

◎5月12日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてレイトショー公開!  連日21時から「KUICHISAN」「TECHNOLOFY」交互の隔日上映!

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