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体を学ぶこと

August 7, 2017

定期的に、慶応大SDMと共同で「道の学校」というものをしています。
この会は、古来の体の使い方を、現代的な体の使い方と対比させながら学び、新しい身体観の統合や総合へと向かっていく営みです。

 

2020年に東京オリンピックが行われるので、その前段階として自分なりに考えてやっています。
この心身変容技法研究会で書いた文章も、その一環。
→●体育と教育と医療 ‐オリンピックの可能性(April 23, 2017)

 


第4回道の学校は、水鳥寿思さんと矢田部英正先生でした。
いやー、来れた方は幸運でした!
こんな素晴らしい組み合わせ、永遠に実現しないと思います!

 

 

水鳥寿思さんは、アテネオリンピック団体としての金メダリストでもあり、現在の日本男子体操の監督でもあります。あの内村さんや白井さんの指導もされている方でもあります。

 

 

 

 

・・・・・・・・・


水鳥さんの話で驚いたのは、精神面の話が極めて大きい比重を占めていたこと。

 

身体技術がミクロレベルに高度になっていくと、やはりミクロの身体と連動する精密な心や頭(脳)とのコミュニケーションが極めて精妙なレベルで大事になっていくということだと思う。

 

「体をあやつる(操る)」と書いて「体操」だから、いかに自分のイメージ世界と身体の動きとのずれをなくしていくか、ということが本当に興味深かった。

 

 

内村航平さんの身体感覚の話も少し出たが、
1人称として、自分の視線で見ている主観的な身体観がある。
それに加えて、3人称としての、ビデオや映像で見ている客観的な身体観がある。
ビデオで自分の身体の動きを何度も観察して、そこで見た映像の自分と、イメージ世界の自分がいる。

そうした3人称のイメージ世界の自分の身体に入り込むようにして、主観的で1人称の身体観を一致させていく、というのは極めて面白い話だった。

 

 

能で言えば離見の見になるのだが、イメージ世界(頭)で構築された世界と、自分が主体的に生きる世界とのずれをなくしていく、というのは、何かとてつもなく深いものを含んでいると思う。

 

 

 

他にも、水鳥さんから出た話で面白かったのは数多くある、
・「承認欲求」の話
・ロンドン五輪での選手の平均年齢が、男性も女性も27歳くらい。若い世界で技を極めて行く特殊な世界であること
・上手くいってるときほど、調子に乗らない慎重さ。
・セルフトーク、リラックス、リフレーミングで心の訓練をすること
・トレーニングの目的は、自分を知る、こと。
・リオオリンピックの選手でのアンケート結果で多かった意見。運や指導者に恵まれてる。競争心が強くない、自立している。つまりは、与えられた環境や指導者に感謝しており、外的要因に左右されていない。
・高度な技を、身近な動作のアナロジーで捉えていく。たとえば、「アドラーひねり」は、「空中でジーパンをはくように」。
・技のコツを言語化をしていく重要さ。言語化していくと、まったく同じ技でも人によって真逆の言語化になることがある。指導法で注意すべき点。
・日本の体操は、選手が6500人に対して審判が2500人!もいて、そういう審判の数の多さも、体操の質を支えていること。


技のレベルが上がるにつれて、他者との競争ではなく、ほとんどが内的自分との競争になっていく、という話は、後半の矢田部先生の本質にもつながる。
東洋の伝統では、常に内観の世界を大切にしているからだ。

 

 

 

 

後半は大尊敬している矢田部英正先生の話。
「からだのメソッド―立居振舞いの技術」(2012年、ちくま文庫)や、
「たたずまいの美学 - 日本人の身体技法」(2011年、中公文庫)
は何度読み返したか分からない!

 

 

 


矢田部英正先生は、
西洋の外側へ向かっていく身体観と比較して、
東洋では内側へ向かっていく身体観である、と話される。
その根本的な方向性の違いを、あらゆる素材と画像と事例とで教えてくれる。

 


ギリシア彫刻での裸体と、東洋の仏像や菩薩像。そこには大きな表現の違いがある。

そうした美や芸術の世界には、どういう人間を理想化しているのか、そうした「イデア」が深層に隠れている。

 

 

 

 

 

外側の見える筋肉をつくり、体を緊張させ、外敵と闘って勝利していく西洋の身体観。、
筋肉を減らし、内側の見えない骨を重要視し、全身を弛緩・脱力させ、内側の自分と向き合うことで、外側の自然との調和や共鳴を感じていく東洋の身体観。

そこにはまったく異なる実用性や美意識や身体技法がある。

 

 

インドの古代の哲学書である「ウパニシャッド」は、「かたわらに座る」という意味で、そうしたそっと座り、自然と一体化していく在り方こそが理想(イデア)とされている。

 

そうした身体観と、洋服や和服との関連や、宗教や風土や文化や美術との関連・・・は、本当に面白い。

 

 

 

矢田部先生の話は、どの断片で聞いても深く含蓄があり、掘れば無限に湧き出る泉のようだ。

 

「体をあやつる(操る)」と考える「体操」は、あくまでも頭で体をコントロールしていく身体観がベースにある。

それに対して、長い東洋の伝統では、体の自然に従って、頭も体の一部として導かれていく、という身体観がある。
それが姿勢や座像や、神や仏などのイデアの世界ともつながってくる。

 

 

身体の骨格に基づいた物理的で合理的なあり方は、姿勢が整う。
それは無駄な筋肉を使わない骨格にかなったあり方。
全身の血液や循環がよくなり、生理的な健康も得られる。
そのことが、鋭敏で新鮮な感覚を取り戻すきっかけになり、爽快な心身も得られる。

「物理・生理・心理」の三位一体の調和こそが大切で、その調和により自然と内面にある美が立ち上がってくる。

 

最終的には美へもつながる、という話は、自分が一番大切にしている世界観だ。
いつ聞いても、しびれます。

 

 

改めて。


水鳥さんの、選手としての、男子日本体操の監督としての話は、本当に含蓄があった。
やはりこれだけの慎重な言葉の選び方と控えめな在り方、みんなの意見に耳を傾ける姿勢こそが、日本体操男子全員のポテンシャルを引き出し、あれだけの才能ある人たちを数多く輩出しているのだと思った。


体の使い方をどう教えるのか、というのは、教わる側にも、教える側にも非常に重要な問題だ。


身体は全員違う。
だが、それでいて何か共通の原理も潜んでいる。
そうした「違い」と「同じ」という真逆の観点に同時に目配せし続けることが大切なことだ。

 

 

 

矢田部先生の話は、いつ聞いても触発される話ばかりで、いつも感動します。

 

みなさんも、是非著作を読み込んでほしいです。身体を入り口に、そこに潜む遥かな文化的な歴史が陰画のように浮き上がってくる様は圧巻です。

 

 

 

二次会で話した、竹馬の文化的な違いも面白かった。

 

東洋では竹馬は前に手を持つところがついているが、西洋では横についている。

体の自然な重力にしたがって竹馬がおのずから動く運動に身を任せるのか、自分の意思でみずから竹馬を動かすのか、そういうところにも、<おのずから>と<みずから>のあわいの問題が見え隠れする。
東洋型のロボットと、西洋型のロボットも、そうした身体観が色濃く出てくる。

 

こうした身体を学ぶ豊かな時間は、NHKのEテレとかで放送されるようになるといいなぁ!!と思う。

身体感覚を入り口にして、あらゆる文化の違いと共通点を探っていく営みは、様々な文化の「多様性と調和(diversity and harmony)」に大きな意味づけを与えるだろうと思う。

 


身体を学ぶことは、

まさに「多様性と調和(diversity and harmony)」を、

身に染みて実感として、学ぶことだと思います。

 

 

<慶應SDMヒューマンラボ主催>@慶應大学日吉キャンパス来往舎シンポジウムスペース
​■2017/2/28:第1回 道の学校

藤平信一(心身統一合氣道会会長)

佐々木隆道氏(プロラグビー選手)

(司会:稲葉俊郎(東大病院)、発起人;針谷和昌(SDM研究所)、前野隆司(慶應SDM))

 

■2017/4/6:第2回 道の学校 

武田宗典(能楽師 観世流シテ方)

小野澤宏時(プロラグビー選手))​


■2017/6/15:第3回 道の学校 

稲葉俊郎(医師)「ひとのからだの歴史‐進化と骨格‐ 2020年にむけて」@慶応大学日吉キャンパス


■2017/08/01:第4回 道の学校 

○矢田部 英正(武蔵野身体研究所)

○水鳥寿思(体操/アテネオリンピック団体金メダリスト/リオデジャネイロオリンピック団体金監督)(司会:稲葉俊郎(東大病院)、前野隆司(慶應SDM))

■2017/10/10(19-21時):第5回 道の学校 

○田島 和枝(雅楽、笙(しょう)、正倉院復元楽器・竽(う)演奏家)

〇本郷幸子(ヴァイオリスト、上野学園大学音楽学部音楽学科 非常勤講師)


■2017/12/05(19-21時):第6回 道の学校 

○ヨーコ・ゼッターランド(バレーボール バルセロナ五輪銅メダル)

○藤田義行(鍼灸師、藤田治療院、プロスポーツトレーナー) 

■2018/02/06(19-21時):第7回 道の学校 

○藤田一照(曹洞宗僧侶)

○甲野善紀(古武術研究家)

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