くち、くちびる
生後4週間となった。
好奇心のためか予定より1か月早く生まれてきたので、今まではまだ予定よりマイナスの時期だった。先日、本来の予定日を迎えた。
子どもが母乳をなかなか飲めず、妻は悩んでいる。 そうした光景を見ていると、よくも人類はこうして生き残ってきたものだと、改めて思う。 吸い付き、飲み込む、という機能は、かなり難解な動作なようだ。かつ、それは生きる根源を支えている動作でもある。
人間の口の役割は、 (1)「お乳を吸う」 (2)「かみつく」 (3)「口の中での消化」 が主な役割だ。
大人になると(3)の機能しか使わないが、もともと「ほ乳類」というグループがあり、人類も「ほ乳類」の一部であるのだから、(1)「お乳を吸う」という行為はかなり重要な動作だ。
(2)「かみつく」動作のために、女性の大事な乳房は傷つく。人によっては出血することもある。傷を負ってまで授乳する姿に、女性の偉大さと慈愛を見る。
ほ乳類の中でも、「唇」という場所を持つのは、実は人類だけだ。 サルもチンパンジーも、唇は持たない。
唇は、皮膚(外胚葉)からできるのではなくて、内臓(内胚葉)の一部としてできる。つまり、口の中の粘膜が、表面にめくれあがって厚ぼったくなったのが、唇という場所なのだ。だから、肌色ではない不思議な色をしている。
人類が唇を持ったことで、母親の乳房に食らいつき、空気の漏れがない隙間のない吸い付きができるようになった。 唇で乳房をくわえ、舌をピストン運動のように動かし、口の中に陰圧をつくる。 そうやって初めて吸い出すことができる。 そのために、口の周りには口輪筋や頬筋がサポートしている。
ストローで飲み物が飲めるのも同じ働きだ。 ただ、あくまでもこの哺乳という動作は、生まれた直後に生き残るために獲得した重要な働きだが、大人になるとあまり使わなくなる。
唇は人類しか持っていない特異な場所。 その唇は、生まれた直後、食にありつくため、お乳を吸うためにできた。 しかも、それはのどから手が出るように内臓がめくれあがってまで作りあげた。
そして、人々が愛を確かめる時に唇と唇とを合わせた「口づけ」をするが、こうした行為にも唇は重要な役割を持つ。なぜ人は愛する人と唇を合わせるのだろう。
そう考えると、赤ん坊は、口、唇、食、愛というものが何なのか、そうした根源的な意味を全身全霊で伝えるメッセンジャーであるような気がしてならない。