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『からだとこころの健康学』(NHK出版) 「はじめに」の公開

2019年に創刊した「学びのきほん」シリーズ(NHK出版)は今年で5年目を迎え、累計50万部!!を迎えようとしているようです。


わたしの著作である『からだとこころの健康学』の「はじめに」の公開に始まりましたので、ぜひ。

書籍も700円台で文庫並みにお安いのでぜひおよみいただければ!!かなり分かりやすく書いてあるので、ソーメンのように喉腰爽やかによめるはずです。他のシリーズ書籍、わたしもすべて読んでますが、どれもとっても読みやすく、お薦めです。





 


「健康」を再定義してみる

 私は現在、大学病院の臨床医として働いています。専門の循環器内科は心臓を治療する部署ですが、私はその中でも血管の中から心臓を治療するカテーテル治療や、生まれつきの心臓の病気を扱う先天性心疾患が専門です。二〇一〇年からは週に一回、大学外で在宅医療を行っています。往診では心臓だけを診るわけではなく、からだ全体を診察しています。


 医師になると、医学で扱う領域が膨大なために専門分野を決める必要があります。何を選んでも自由なのですが、私は心臓を深めていくことに決めました。その理由は、研修医時代に救急の現場で働いていたとき、一刻を争う緊急事態では心臓を診る技術や経験の差が結果に大きく反映することを肌で感じたからです。


 人体における心臓の役割は、「循環器」という名前からもわかるように、からだ全体に血液を送り出して巡らせることです。オギャーと生まれてくる前、お母さんのお腹の中にいるときから、人生の終わりのときまで、休むことなく一秒に一回のリズムで鼓動し続ける不思議な臓器です。人生の一瞬一瞬で、生命に深く結びついている臓器だと言えます。


 この本では、日々の臨床現場での経験を通して感じたことをもとに、あなたと一緒に「健康」の本質について考える時間を持つことができればと考えています。


「健康でありたい」と思うとき、「健康であるために何をすればいいか」「病気にならないためにどうすればいいか」といった情報に敏感になることがあるでしょう。


 テレビや雑誌、インターネットなどでは、日々、健康に関する膨大な情報が発信され、濁流のように流れています。


「〇〇を食べると元気になる」

「〇〇をすれば癌(ガン)にならない」


 もしかすると、そうした手軽な情報を得ることが目的でこの本を手にしてくださったのかもしれません。しかし、この本では少し異なった観点から、「健康」を考える土台となるお話をしたいと思っています。


「健康」について考えるとき、「病気ではない」ことが「健康」であると考えがちですが、果たして「健康」とはただ単に「病気ではない」状態を指すのでしょうか。もしそうではないとしたら、「健康」とは一体どのような状態なのでしょうか。


 のちに詳述しますが、西洋医学の発想では、「病」は悪者なので、「病」を倒して撲滅することが治療の目的となります。しかし私は、臨床の現場を重ねるにつれて、こうした発想だけで生命のあり方や「健康」を考えることに疑問を感じるようになりました。


 心臓の治療がうまくいき、悪い部分はなくなったはずなのに、数年経つと心臓病が再発してしまうことがあります。心臓が良くなっても、その他の病気が原因で亡くなってしまうこともあります。「病」という敵にそのときは勝利したはずなのに、根本の原因が変化していなければ、「病」は形を変えて何度でも現れてくるのです。


 そうかと思えば、医療スタッフも家族も、誰もがもうダメかと諦めかけたとき、驚異的な力で踵をかえして死の淵から生還するケースも多く経験しました。


 こういった経験や現場での対話の中で、「健康」という言葉の本質について考え直させられることになったのです。


「健康」を考えることは、病院の中だけで完結するものではありません。病院は特定の「病」を治療する特殊な空間です。しかし、その人の生活や人生は、病院を離れた日常の中にこそあります。


 週に一回行っている在宅医療では、患者さんのご自宅を訪問し、その人の暮らしの中に飛び込んで診療を行います。普段の生活やその人を取り巻く家族、その積み重ねとしての人生。そのとき、その人を成立させている背景や歴史からわかることもたくさんあります。


 普段は意識しにくいことですが、私たちの生命は、「からだ」と「こころ」という二つの仕組みがうまく機能することで成り立っています。それらのことを考えたり悩んだりする「あたま」は「からだ」の一部であり、「こころ」の本当の働きを考えるときに重要な場所でもあります。


 では、そもそもこの「からだ」と「こころ」はどのように働いているのでしょうか。そして、それらを基本としている、人間の生命の全体像とはどういうものなのでしょうか。それらを正面から考えずに、「健康」や「病気」を考えることは難しいのではないかと思います。


「健康とは何か」


 その定義は一つではありません。その人にとっての「健康」は、一人ひとりが主体的に決めて、発見するものです。そして、医師の仕事は、その人が決めて発見した「健康」という目的地へ向かうときに、伴走者として手助けをすることだと思います。


 こうしたことを考えていくのが、本書で言う「健康学」です。


 生まれる前から亡くなるときまで、片時も離れず一緒にいる「からだ」や「こころ」について考えていくために、この本がそのきっかけとなり、あなたなりの「健康」を深く考え直すお手伝いができれば幸いです。








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