THEATRE MOMENTS【PANIC】【遺すモノ~楢山節考より~】

THEATRE MOMENTSという劇団の、【PANIC】(2013年初演)、【遺すモノ~楢山節考より~】(2015年初演)を上野ストアハウスで見てきた。二つともかなり素晴らしい演劇で、【遺すモノ~楢山節考より~】は泣いた。

【PANIC】は、安部公房!!原作の戯曲化。 もともと、この演劇を見に行こうと思ったのは、安部公房の演劇を見たい、というのと、初日のアフタートークに徳永京子さんが出ていて、きっと面白いのだろうと思ったからだ。

かつ、この【PANIC】で面白いのは、日本人とマレーシア人が混ざった芝居で、台詞も日本語、英語、マレーシア語?が混在していて、かなり面白かった。(字幕で意味は分かるが、言葉が分からなくても雰囲気だけでも伝わってくるのが演劇のすごいところだ)

【PANIC】の内容。

失業中だった「私」は「パニックエコノミクス」という正体不明の会社の入社試験を受ける。面接の待ち合わせ場所は居酒屋。試験官の「加藤」と飲み酔っぱらい意識がなくなる。目が覚めると、「私」は知らない部屋にいて、横にはその「加藤」の死体があった。知らないうちに殺人を犯したと思った「私」は、すべてを捨てて逃亡し、人生が一変する。 ・・・

連続した人生を求めるのは幸せな人間で、世界から外れてしまった人間は、すべてが断片化して脈絡のない現実を求める、というくだりも含め、安部公房という天才の強い表現力と構成力が、舞台を強く引っ張っていた。 犯罪があることで、この世界は法律が生まれ、その周辺の職業が生まれ、犯罪こそが雇用を生み出し、経済活動を生産させているのだ、というくだりなど、現代の経済中心社会を鋭く風刺する視点は、さすがの安部公房節であった。 そして、人が少しずつずれていく、狂っていく、現実の解釈がよくわからなくなっていく、、そうした心理描写の過程の描き方はリアリティーに満ちた戦慄するもので、あらためて安部公房の表現力に舌を巻いた。また改めて安部作品をすべて読み直してみたくなった。

演劇手法でも、トイレットペーパーの小物だけですべてを表現したキャストもすべて素晴らしかった(オイルショックではトイレットペーパーが無くなった。震災の時も。経済活動とトイレットペーパーをメタファーでつないでいるのだと思った)。

二作目は【遺すモノ~楢山節考より~】。 もちろん、深沢七郎の名著「楢山節考」を下敷きにしている演劇。

「楢山節考」は、ある意味で安楽死がテーマになっていて、医学部の学生時代に読んだときはピンとこなかったが(養老先生が強く推薦されていたので)、いまこうして演劇として見て、はじめて深く刺さった。

「70歳になった老人は、聖なる楢山に行く」という因習がある村の話だ。

それは名前を変えた「おば捨て山」でもあるのだが、よくよく時代背景を見ると、山の合間で閉鎖した村、貧しい時代、だれもが食べ物が十分にない時代、その閉じた小さい村の生態系を維持するためには、70歳以上の老人には死んでもらうしか食料を確保する手段がなかった。暗い影を持つ過去の日本のリアルな話だろう。村での盗みは、村人から半殺しにされる掟があったり、狭い村社会には、その村独自のしきたりや掟や因習がある。祭りも。 それもすべて、村の秩序や生態系を維持するため。

70歳以上の老人が山で死ぬ掟(しかも息子が連れて行かなければいけない)がある村の死生観を支えているのは、生まれ変わりの死生観。おばあさん、おじいさんは、孫として生まれ変わってくる。だからこそ、死ぬことは自分のためであり、息子のためであり、孫の命のためである。それが村全体の生命のためである。そうして命は引き継がれてきた。そうした命の生まれ変わりの死生観があるからこそ、成立しうるギリギリの風習だったのだろう。

子どものこと、親のこと、食べることが不十分でなかった極限状態で命をつないできた時代の話。思わず何度も泣けた・・。

「楢山節考」を深沢一郎の小説で読んだ時よりも、演劇で見たほうがグサリと刺さった。 おそらく、それはあまりに古い日本のしきたりや因習が、想像できないくらい時代が急激に変化したからだろう。演劇では言霊の力もあり、一気に過去の時代に自分が連れていかれる。祭りの描写もリアルだった。

そうした暗い負の過去の上に現代の幸福がある、ということは忘れてはいけないと思った。 この演劇も、使う小道具は四角い大小のフレームだけですべてを表現していて、かなり見事な演出だった。

安部公房原作の【PANIC】、深沢一郎の「楢山節考」。 いづれも超一級の文学作品で、その強度を損なわないよう、むしろ深めるように演劇として昇華されていて、二作品とも本当に心を揺さぶられた。

特に、二作目の【遺すモノ~楢山節考より~】は、安楽死、尊厳死、日本人の死生観や自然観(山という他界)を考える上で非常に示唆に富む作品で、医療者全員に見てほしい教材だと思った。医療倫理は、こうした文化を通してしか、自分の中に育まれて行かないと思う。

THEATRE MOMENTSの演劇ははじめて見たが、ほんとうに素晴らしかった。 日本の演劇は、ほんとうに層が厚いと思う。

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